研究者の紹介

吉田 丈人
吉田 丈人東京大学大学院総合文化研究科・総合地球環境学研究所 准教授
1どんな研究が専門ですか?
生態学・陸水学。生物や生態系に見られる多様性や複雑性を解き明かす研究と、人と自然のかかわりの理解やその持続可能性について研究しています。
2この研究での役割を教えてください
総合地球環境学研究所の実践プロジェクト「人口減少時代における気候変動適応としての生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の評価と社会実装」のプロジェクトリーダーとして、多くの共同研究員や関係者の皆さんと一緒に、研究と実践を進めています。
3この研究を進める上で工夫した点、苦労した点は?
自然がもたらす「災い」と「恵み」は、さまざまな学術分野で研究されていますが、私たちのプロジェクトでは、それらを総合的に理解し表現することを目指しています。異なる学術分野の知識を総動員すると、どんな新しいことが見えてくるのか。難しくもあり楽しくもある挑戦です。
4このウェブサイトを通して、皆さんに知って欲しいことは何でしょうか?
災害のような自然がもたらす「災い」は、同じ自然がもたらす多くの「恵み」と、密接に関係しています。災いをどんなに減らすことができても、恵みが得られなくなれば、私たちの暮らしや社会は成り立ちません。
このウェブサイトを通して、私たちの身近にある環境がもたらす自然の恵みと災いの現状、それらのかかわりや将来予想を知り、これからの暮らしや社会のあり方を考えるきっかけが提供できれば大変うれしく思います。
私たちは、将来の世代に、どのような環境を引き継いでいけるでしょうか。
饗庭 正寛
饗庭 正寛総合地球環境学研究所 特任助教
1どんな研究が専門ですか?
生態学。森林を中心に生物群集と人間を含む環境との関係を幅広く研究しています。
2この研究での役割を教えてください。
総合地球環境学研究所の実践プロジェクト「人口減少時代における気候変動適応としての生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の評価と社会実装」のサブリーダーとして、災害リスクや生態系サービスの評価や予測に、データ整理、統計解析、地理情報解析(GIS)等の面から関わっています。
3この研究を進める上で工夫した点、苦労した点は?
日本全土を対象として、災害リスクや生態系サービスの評価を高解像度・高精度で行う上で必要となる、計算時間の短縮に苦労しました。また、定量的評価の難しい文化的生態系サービスの評価・予測にもさまざまな工夫が必要でした。
4このウェブサイトを通して皆さんに知って欲しいことは何でしょうか?
「生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)」の推進は、恐ろしい自然災害のリスク低減と、私たちの普段の生活を豊かに彩ってくれる自然の恵みや生物多様性の持続的享受を両立する鍵となるものです。
その実現のためには、日々、自然災害のリスクに晒され、また一方では自然の恵みを享受している皆さんの理解や参加が必要不可欠です。Eco-DRRの考え方には、少々難しい部分もありますが、本ウェブサイトが皆さんのご理解の一助となれば幸いです。
秋山 祐樹
秋山 祐樹東京都市大学建築都市デザイン学部都市工学科 准教授、東京大学空間情報科学研究センター 特任准教授、総合地球環境学研究所 共同研究員
1どんな研究が専門ですか?
空間情報科学とそれに関連する領域(都市計画、交通工学、都市地理学、統計学、データサイエンス)。特に、空間ビッグデータの分析と研究成果の社会実装について研究しています。
2この研究での役割を教えてください。
総合地球環境学研究所の実践プロジェクト「人口減少時代における気候変動適応としての生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の評価と社会実装」において、主に同研究で不可欠な空間情報(日本全国の建物データ、建物単位のミクロな人口情報等)の開発・提供を行っています。
3この研究を進める上で工夫した点、苦労した点は?
研究対象地域が日本全土と広域なうえ、研究で使用するデータは建物・人単位というミクロさが要求されたため、このような大規模データをいかに迅速に効率よく整備するかについて工夫しました。また様々な専門分野の研究者と連携するため、私の専門ではない研究者にも使いやすいデータを整備できるよう心がけました。
4このウェブサイトを通して知って欲しいことは何でしょうか?
J-ADRESが表現する「生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)」とはどのような考え方なのか、私たちの生活にどのように関連し、将来の私たちの生活にどのような影響を与えるのか。これらを知っていただく機会となれば幸いです。
私の専門分野である空間情報科学は、さまざまな研究分野と連携ができると言われています。今回のような連携の仕方もあることも知っていただけると良いな、と思います。
一ノ瀬 友博
一ノ瀬 友博慶應義塾大学環境情報学部 学部長・教授、総合地球環境学研究所 共同研究員
1どんな研究が専門ですか?
景観生態学・緑地計画学・農村計画学。生物多様性の保全や持続可能な都市や地域のあり方を研究しています。
2この研究での役割を教えてください。
総合地球環境学研究所の実践プロジェクト「人口減少時代における気候変動適応としての生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の評価と社会実装」のグループリーダーとして、日本全国スケールでの災害リスクの評価と将来予測を担当しています。
3この研究を進める上で工夫した点、苦労した点は?
災害リスクの評価はこれまでも実施してきましたが、日本全国での評価は初めてでした。そのため、評価の手法について時間をかけて議論してきました。また、気候変動を踏まえた将来予測も難しい点です。洪水リスクについては、滋賀県の地先の安全度マップを元にモデルを作成しました。
4このウェブサイトを通して知って欲しいことは何でしょうか?
日本はさまざまな災害リスクが多い国です。歴史を振り返ると、明治維新以降の急激な人口増加により、リスクが高い場所にもかかわらず自然を破壊し、土地開発がなされてきました。特に第二次世界大戦後から高度経済成長期にかけて、その傾向が顕著でした。
21世紀に入り、私たちは急速な人口減少に直面しています。これからは災害リスクの高い場所での居住や高度な土地利用を避け、かつての自然を再生していくことが私たちの持続可能な未来のために重要です。
土地の使い方はそれほど簡単には変えられません。多くの方々に問題の所在を理解していただき、一緒に考えていただく機会をこのウェブサイトがつくれればと思っています。
齊藤 修
齊藤 修地球環境戦略研究機関 上席研究員、総合地球環境学研究所 共同研究員
1どんな研究が専門ですか?
自然の恵みの総称である生態系サービスと人間との相互関係、それにまつわる社会的課題についての自然科学と社会科学を融合させた学際的研究です。
2この研究での役割を教えてください。
生態系を活用した防災減災の多面的な機能について、生態系サービスの代表的な指標を用いて、定量的・空間明示的な解析と同時に、生態系を活用した防災減災に関する人々の認知や選好の実態把握に取り組んでいます。
3この研究を進める上で工夫した点、苦労した点は?
生態系の保全・再生を考えるにあたり、中長期的な視点で捉える必要がある一方、宅地開発・移転のような土地利用計画はそれよりも短い時間軸での検討が多いです。同様に、生態系の空間スケールと集落や市町村の境界も必ずしも一致しません。このような生態系と社会の時空間スケールの違いの調整が難しいところです。
4このウェブサイトを通して知って欲しいことは何でしょうか?
多様な分野の研究者が共同で携わりながら、世界的にも注目されている「生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)」、日本の伝統的な防災・減災に関する仕組みや取り組みについて実証的に検証していること、また、人口減少のなかで日本がとるべき将来の選択肢や複数のシナリオを科学的な手続きを踏まえて提示していることをぜひ知っていただきたいです。
瀧 健太郎
瀧 健太郎滋賀県立大学環境科学部 准教授、総合地球環境学研究所 共同研究員
1どんな研究が専門ですか?
水工学、応用生態工学をベースに、流域の水循環と社会システムとの相互関係に着目し、持続可能な流域社会の実現に向けた政策や計画に関する研究を進めています。
2この研究での役割を教えてください。
かつて、滋賀県職員として県内全域の水害リスクを評価した「地先の安全度マップ」の作成に携わりました。そのときの経験を踏まえ、参加されている研究者の皆さんとともに全国展開するため現時点で実現可能な方法を検討しました。
3この研究を進める上で工夫した点、苦労した点は?
評価結果の見せ方を慎重に検討しました。本ウェブサイトで評価した内容は、さまざまな仮定に基づいてシミュレーションした結果の一つです。実際にシミュレーションの通りになるかと言えば、そうではありません。結果をどのように解釈すればいいのか、この説明が最も難しかったです。
4このウェブサイトを通して知って欲しいことは何でしょうか?
さまざまな方法でリスクを評価し、その結果をオープンにすることは大変重要なことです。しかし、結果の解釈を誤ったり結果が独り歩きしてしまったりすると、社会を混乱させてしまいます。
ここでお示ししている結果はとても大雑把なものですが、全体の傾向を確認することはできます。細かく見ると現実に合わないところが多くあります。ただし、傾向はそれなりに合っているはずです。
ご覧いただいた方は、ぜひ身の回りのリスクを気にして、土地利用について詳しく調べるきっかけにしていただけるとありがたいです。
西田 貴明
西田 貴明京都産業大学生命科学部 准教授、総合地球環境学研究所 共同研究員
1どんな研究が専門ですか?
学際的なアプローチによる環境政策の研究。特に、自然資本や生物多様性保全と社会経済活動の両立に向けた政策・評価手法の開発です。
2この研究での役割を教えてください。
「生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)」や、グリーンインフラの社会実装における政策課題、および技術的な障壁を明らかにし、今後の社会実装に必要となる社会制度やインセンティブを提案することです。現在、地域課題に関わる建設コンサルタントの皆さんと連携しながら、実践の場における問題把握や課題解決策の検討を行っています。
3この研究を進める上で工夫した点、苦労した点は?
Eco-DRRの考え方に対する社会的な重要性は、地方自治体や関係者においても理解されつつあります。しかし、実際に事業を実施する場においてすぐに導入できるものではなく、さまざまな社会的・自然的条件を踏まえてEco-DRRの適用方法を丁寧に検討する必要があります。
4このウェブサイトを通して知って欲しいことは何でしょうか?
Eco-DRRの基本的な考え方を捉えるとともに、自然環境の情報から得られるリスク情報や自然環境から得られるメリットを把握していただきたいです。また、本ウェブサイトに掲載されているEco-DRRに関わるさまざまな活動もご覧いただくことで、生態系を活かした持続可能な社会のあり方を考えるきっかけになれば幸いです。
橋本 禅
橋本 禅東京大学大学院農学生命科学研究科(未来ビジョン研究センター兼任) 准教授、総合地球環境学研究所 共同研究員
1どんな研究が専門ですか?
生態系サービスがどこにどの程度あるか、その長期的な変化の傾向を土地利用・被覆シミュレーションや生態系サービス評価モデル、シナリオ分析という手法を用いて空間的に明らかにしています。
2この研究での役割を教えてください。
総合地球環境学研究所の実践プロジェクト「人口減少時代における気候変動適応としての生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の評価と社会実装」において、共同研究者の皆さんとともに全国スケールと事例サイト(滋賀サイト、千葉サイト)での土地利用や生態系サービスのシナリオ分析を担当しています。
3この研究を進める上で工夫した点、苦労した点は?
これまでの全国スケールでの土地利用・被覆や生態系サービスの評価やシナリオ分析は、空間解像度が500m〜1kmの評価でした。このプロジェクトでは、空間解像度を100mに高解像度化することで、より詳細な情報提供ができるようになりました。
4このウェブサイトを通して知って欲しいことは何でしょうか?
土地利用に関わる意思決定(例えば、居住地の選択)は、通勤・通学やその他の生活の利便性だけでなく、自然災害のリスクや生態系サービスの受益の程度とも密接に関連しています。災害リスクや自然の恵みの豊かさは、時に相互にトレードオフの関係にあることを知っていただければ幸いです。
黄 琬惠
黄 琬惠総合地球環境学研究所 研究員
1どんな研究が専門ですか?
農村計画と地域計画学をバックグラウンドとし、地域資源の空間分析、観光学、土地利用の分析を専門としています。
2この研究での役割を教えてください。
総合地球環境学研究所の実践プロジェクト「人口減少時代における気候変動適応としての生態系を活用した防災減災(Eco-DRR)の評価と社会実装」のプロジェクトにて、土地利用の将来予測、シナリオ分析と生態系サービスの評価を担当しています。
3この研究を進める上で工夫した点、苦労した点は?
「自然の恵みの豊かさ」を量化するために、生態系サービスの評価を行いました。評価のためのデータ収集と空間分析は大変でしたが、多元的かつ総合的に生態系サービスを評価することができ、非常に有意義なものになったと考えています。
4このウェブサイトを通して知って欲しいことは何でしょうか?
J-ADRESでは「自然の恵みの豊かさ」を生態系サービスの指標で評価しました。評価した生態系サービスは、土地利用に基づいたポテンシャルの値です。
多くの指標は相対値であり、比較することで意味が現れてきます。災害リスクに注目するだけでなく、自治体が持つ生態系サービスの価値を照らし合わせて見ていただきたいです。
災害リスクが低く、自然にも恵まれている地域を参照しながら、持続可能な土地利用のあるべき姿を探索していただきたいです。
山田 由美
山田 由美慶應義塾大学大学院 研究員、総合地球環境学研究所 共同研究員 
1どんな研究が専門ですか?
空間情報学・景観生態学。地形の構成や配置が、生き物の生息地や治水に対して果たす役割を空間的に探る研究をしています。
2この研究での役割を教えてください。
プロジェクト内外のさまざまな研究者が計算したデータ(浸水の深さ、建物に住んでいる人、土地利用等)を地図上(GIS)で集約し、経済的な観点を加えながらリスクの量を計算する作業をしています。
3この研究を進める上で工夫した点、苦労した点は?
データを集めるにあたって、時期や細かさなどは適切か、意味的に組み合わせの不整合がないか。全体を見渡すことに細心の注意を払いました。なお、データが無い場合は必要な情報を収集し、延々と続くような地味な作業を通じて作成いたしました。
4このウェブサイトを通して知って欲しいことは何でしょうか?
気候変動の影響で災いはより広く、頻繁に起こりやすくなります。安全な暮らしを得るために、少しずつでもその災いを避けた土地利用に転換していってほしい。災いの大きい空間は自然に還すことで私たちに恵みを生み出してくれるはず。それがこのデータで伝えたいメッセージです。