「ハザード」×「暴露」×「脆弱性」をもとに評価する
「災害からの安全度」

「災害からの安全度」とは

近年、豪雨など極端な気象現象による災害が頻繁に起きています。台風や梅雨などの大雨による浸水災害や土砂災害、台風などの接近にともない発生する高潮による浸水災害は、私たちの生活に甚大な影響をもたらします。現在進行中の気候変動により、今後ますます極端な気象現象が増えると予想されており、災害への対応がこれまで以上に求められています。

社会が災害によって被る損害の内容や大きさは、「ハザード」「暴露」「脆弱性」の3つの要素によって決まります。

「ハザード」とは、洪水・土砂崩れ・高潮など、脅威となり得る現象の存在やその大きさを指します。「暴露」とは、災害の影響を受ける人々や財産などが、ハザードにさらされている程度を指します。「脆弱性」とは、起きうる可能性のある災害に対して、被害の受けやすさや対応能力の低さを指します。これらの「ハザード」と「暴露」と「脆弱性」が組み合わさることで、災害リスクが決まるのです。

ここで紹介する「災害からの安全度」は、災害リスクをもっていない人々や財産などの割合を指しています。具体的には、都市的な土地利用や農地などが、災害の影響を回避できていると推定される割合を計算しています。

J-ADRESでは、洪水による浸水災害、土砂災害、高潮による浸水災害について、土地利用に基づく災害リスクを評価し、その後、災害からの安全度を計算しました。

災害リスクと安全度の評価方法

ハザードと暴露と脆弱性のデータを用いて、災害リスク(建物被害額・農作物被害割合・被災人口)を推定しています。自治体ごとに災害リスクを集計したのち、災害リスクをもっていない人口・建物・農作物の割合(%)を「災害からの安全度」として計算しました。

レーダーチャート内の項目として表示している「安全人口割合(床上浸水)」「安全人口割合(家屋水没)」「安全建物割合」「安全農業生産割合」の詳細については、「評価指標の詳細」をご覧ください。

ハザード

洪水による浸水ハザード

現在、防災・減災に広く活用されている浸水想定区域図(洪水ハザードマップ)では、計算に必要なコストや時間などの問題から、小規模な河川や内水氾濫による浸水がしばしば考慮されていません。

J-ADRESでは、滋賀県が公表している「地先の安全度マップ」に準じて計算された網羅的な浸水ハザード(浸水深)と詳細な地形との関係を、機械学習法によりモデル化したうえで、3つの仮想的な降雨条件(ケース1〜3)のもとでの浸水深を、50mx50mの空間解像度で日本全国を対象に推定しました。

ケース1では、滋賀県における100年確率降雨(1時間雨量109mm相当、24時間雨量529mm相当)を想定した浸水深を推定しています。
ケース2では、滋賀県における200年確率降雨(1時間雨量131mm相当、24時間雨量634mm相当)を想定した浸水深を推定しています。
ケース3では、滋賀県における1000年確率降雨(1時間雨量196mm相当、24時間雨量952mm相当)を想定した浸水深を推定しています。

J-ADRESでは、ケース3の評価結果を示しています。

今回の統計モデルが一定の精度を持つことは、交差検証および過去の浸水実績を用いて検証していますが、この手法では個別の地点の推定精度を定量できていないことには注意が必要です。また、今回想定した降雨条件に匹敵する降雨の頻度(年確率)は地域間で大きく異なりますが、ここではそれを考慮していないことにもご注意ください。


土砂災害ハザード

大雨が原因となり発生する土砂災害のハザードに、土石流・地すべり・がけ崩れがあります。土石流は、急峻な谷を土砂と雨水がまじって流れ出す現象です。地すべりは、雨水などがしみこんだ斜面が広い範囲にわたってすべり落ちる現象です。がけ崩れは、傾斜が急な場所が突然に崩れる現象で、雨水などがしみこんで起きる現象です。

土石流・地すべり・がけ崩れによる土砂災害が発生するおそれのある区域が、土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域として都道府県により指定されています。J-ADRESでは、すでに指定されたこれらの区域をハザードとして用いました。

出典:「国土数値情報(土砂災害警戒区域データ)」(国土交通省)(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-A33-v2_0.html


高潮による浸水ハザード

高潮は、台風や発達した低気圧が接近するとき、気圧が下がったり強風により海水が吹き寄せられたりして、海水面が上昇する現象です。海水が陸地に流れ込むと、浸水の災害を引き起こします。

J-ADRESでは、海に近い場所で標高3m以下の場所を、高潮による浸水のハザードがある場所としました。国土地理院の基盤地図情報数値標高モデルを用いて、高潮による浸水の場所と浸水深を評価しています。

出典:国土地理院ウェブサイト(https://fgd.gsi.go.jp/download/menu.php

暴露

災害のハザードが存在する場所での居住者・建物・農地は、ハザードへの暴露を通して人や財産への災害リスクに直結します。そのため、市街地や農地などの土地利用とハザードとの位置関係が大事です。J-ADRESでは、下記のデータを用いて、2010年頃のハザードへの暴露を評価しました。なお、本研究は、東京大学CSIS共同研究(No. 952)による成果の一部です(利用データ: Zmap TOWN II 2008/09年度(株式会社ゼンリン提供))。

ⅰ)居住人口
日本全国で1km四方のメッシュごとに公表されている国勢調査の人口データに基づき、建物の用途や容積を考慮した上で、建物ごとの居住人口を確率的に推定したデータを用いました。

出典:Akiyama, Y. and Ogawa, Y. (2019) Development of building micro geodata for earthquake damage estimation. IGARSS 2019 Proceedings, 5528-5531.

ⅱ)建物
日本全国のすべての建物の空間分布を把握できるデータを用いました。戸建て住宅や共同住宅だけでなく商業施設や各種の事業所なども含めた、全ての種類の建物を含んでいます。

出典:Akiyama, M.C. and Akiyama, Y. (2019) Spatial distribution and relocation potential of isolated dwellings in Japan using developed micro geodata. Asia-Pacific Journal of Regional Science, 3(5):1-17.
秋山祐樹・秋山千亜紀 (2018) 建物マイクロジオデータを用いた全国の孤立住宅の分布把握.日本地理学会発表要旨集, 93:217.

ⅲ)農地
日本全国の土地利用を100mx100mの空間解像度で評価したデータを用いて、農地(水田や畑地など)を対象としました。

2050年の将来を対象としたシナリオ分析では、現状のまま推移した将来(成り行きシナリオ)と災害を避けるよう改善した将来(Eco-DRRシナリオ)によって暴露の状況が異なります。詳しくは、「シナリオ分析の詳細」をご覧ください。

脆弱性

災害のハザードにさらされている居住者については、避難しなかった場合を想定した被災人口を評価しました。同じく建物については、建物の階数を考慮したうえで、被害を受ける建物の資産額を計算しました。同じく農地については、被害を受ける農作物の割合(被害率)を計算しました。

出典:国土交通省 (2008, 2010) 治水経済調査マニュアル(案)各種資産評価単価及びデフレーター